事業承継と信託

 

実さん(75歳)は、輸入雑貨関連の株式会社ミノルを経営しています。

株主は実さん1人です。

事業は順調で、業績も良いようです。

奥さんは、会社経営にはまったくタッチしていませんが、長男(45歳)は実さんと会社経営に携わっています。

ところが、最近物忘れが激しく、持病を持っており、体力に不安を抱えています。

 

家族は、奥さんと長男(45歳)、次男(39歳)です。

長男と次男は、ともに家庭を抱え、独立しています。

次男は普通の会社員で会社を継ぐ気はありません。

 

そろそろ、会社を長男に任せたいと思っていますが、いますぐ全部を任せるのは、頼りなく感じています。

 

実さんの悩み(希望)

・いずれ会社の経営を長男に任せたいが、今すぐに任せるのは不安だ。

・株式全部を長男が取得したら、次男は文句を言わないだろうか

 

 

実さんの財産

・株式会社ミノルの株

・預貯金

 

 

このまま何も対策をしない場合、どうなるのか見てみましょう。

・実さんが認知症になった場合、株主総会が成り立たないから、重要なことが決められない。

・実さんが亡くなった場合、株式が長男に集中しない。(奥さんと次男も株式を相続する)

・奥さんと次男も株主になると、経営権を巡って争いが生じたり、重要なことが決まらなくなる恐れがある。

 

そこで、民事信託を利用します。

委託者は、実さん、受託者は新しく設立する一般社団法人とします。

 

信託契約の内容は、

・信託目的:信託財産の適切な管理・運用によって、会社の経営の承継を円滑にすること。

・受益者は、実さん

信託財産:株式の全部

・一般社団法人の理事に実さんと長男になってもらいます。

 

 

一般社団法人と信託契約を結ぶことによって、株式会社ミノルの株主は、一般社団法人となりますが、その理事は実さんと長男が就任することで、議決権の行使は、従来通り、実さんを中心にすることができます。

株式の評価額が大きすぎず、相続税額が気にならない程度であれば、受益者を長男としてもよいでしょう。

信託を利用することによって、受益者を長男、会社経営にかかわる議決権(意思決定権)は実さんに残したまま、一般社団法人の理事同志として、実さんは長男を指導しながら、時に協力しあい、事業の承継を果たすことができます。

また、株式全部を信託することで、奥さんや次男に株式が行かないようにすることができます。

ただし、奥さんや次男が文句を言わないように、実さんは財産全部を信託するのではなく、一部は信託しないで、そのお金を遺言によって、奥さんや次男に相続させることができるのです。