民事信託の基本的な仕組みを下図にお示します。
信託は重要な役割を担う3人が登場します。
委託者(いたくしゃ)
1.財産を持っている方でその管理を身内の人に任せたいと思っている人(イメージはご高齢者) |
受託者(じゅたくしゃ)
2.委託者に代わって、財産の管理を任された人(イメージは高齢者の方のこども等のご親戚) |
受益者(じゅえきしゃ)
3.信託によって、利益を受ける人 (はじめは、委託者ご本人が受益者になる場合が多い) |
人は歳をとると、若いときと同じようにはできなくなってきます。 そのときに、自分(委託者)の財産を信頼できる身内の人(受託者)に任せたいと思う気持ちは自然なことですね。
こういうとき、今までですと代理人や代行者という形で、ご本人に代わって動いてくれる人がいました。
しかし、ご本人の意思がしっかりしている間は良いのですが、認知症などになった後は、できなくなるのです。
それが、たとえ認知症を患ったとしても、今までできなかったことが、民事信託ではできるようになったのです |
委託者(父親)は受託者(長男)に、自分の財産の管理や処分を任せます
(信託契約)
受託者(長男)は父に代わって、父親の希望通りに、父の財産を管理運用します。
長男が、父の財産の管理・運用によって得た権利(お金、賃料収入、配当金等)を父の希望通りに父に渡します。
✅ 父親(委託者)は、認知症を患う前から、 長男(受託者)に、自分の財産の管理を任せることができます。
✅ 父親(委託者)は、たとえ認知症を患っても、 自分の希望通りに財産の管理を長男(受託者)に任せることができます。
✅ 父親(委託者)は、自分の死後のことを長男(受託者)に任せることで、その手続きを長男にしてもらうことができます
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委託者とは、高齢等の理由から、財産の管理や運用を誰かに頼みたいと考えている財産を保有している人のことを言います。
信託は、委託者が信託行為を行い、信託の目的を定め、信託財産を提供することによって、設定されますので、委託者がいなければ信託は始まらないということになります。
委託者になれるのは、人以外に法人もなることができますが、民事信託の場合は、あまり例がないかもしれません。
受託者とは、信託を引き受け、委託者の希望を叶うように、委託者の財産を責任をもって管理し、運用し、処分する人を言います。
主な重要な職務として
・信託された財産と他の財産の適切な区分管理
・信託財産の適切な管理や運用
・信託状況の定期的な報告
信託の中で、一番重要なポストといえます。
受益者とは、信託によって、利益(財産をもらう権利、使用する権利、株の配当を受ける権利、賃料を受ける権利等)を受けることのできる人を言います。
よく設定する形として、初めの受益者を委託者ご本人とする場合がありますが、特に決まりはありません。
自分自身の代わりに、もしくは同時に奥さんを受益者とすることもできます。
受託者が、信託の目的に沿って、適切に仕事をしているか、監督する役割を担っています。
信託監督人
受益者が受託者を監視できない、または監視できても十分ではない場合に、受益者のために受託者を監督する人です。
受益者代理人
信託行為によって定められた受益者の代理人であり、受益者に代わって、受益者のために信託を管理する人です。
信託事務代行者
受託者から信託の事務処理の一部を委託された人を言います。
委託者の手助けをする人とご理解ください。
指図権者
受託者に対して、信託財産の管理や運用、処分の方法を指図する人を言います。
受託者にアドバイスや指示をする人とご理解ください。
信託の設定(信託行為といいます)の方法ですが、
■信託契約
■遺言信託
■信託宣言
の3つが定められています。
信託契約は、信託の目的・信託の内容・信託関係人等基本的なことを決めて、委託者と受託者が結ぶ契約をいいます。
公正証書によって作成することは強制されていませんが、金融機関(銀行)に信託口口座の開設を依頼する際に公正証書化されたものを提示できたほうが、手続きはスムースにいきます。
また、公正証書化された信託契約書は、信託契約に関する争いごとを未然防止してくれる面があります。
そういう意味では、公正証書によって作成されたほうが望ましいと言えます。
遺言信託とは、委託者が、信託の基本的事項を遺言として設定することを言います。
遺言信託は、遺言によって信託を設定しますので、民法に規定する遺言の規定が適用されます。
遺言信託は、自筆証書遺言形式、公正証書遺言形式のどちらでも可能(有効)ですが、信託契約同様、公正証書で作成したほうが望ましいと言えます。
遺言は、遺言した人の死後の事柄ですから、遺言の効力が生じるのも遺言者が死亡したときとなります。
信託契約との大きな違いは、信託契約が委託者と受託者の契約(約束)であるのに対して、遺言信託は委託者の遺言(1人でできる)である点です。
この違いから、信託の効力が発生するのも契約は約束で決めることができますが、遺言は死亡時ということになります。
皆さんの身の回りの金融機関(銀行、信用金庫等)が「遺言信託」という商品を扱っていますが、それとここで言う遺言信託は全く違いますので、ご注意ください。
銀行の遺言信託は、依頼者に遺言を書いてもらって、その遺言の内容を実現するためのサービスの総称をいいます。
信託という用語は使っていますが、いわゆる信託法を根拠にしたサービスではありません。
信託宣言は少し、特殊といえるかもしれませんが、自分の財産を自分自身に対して信託するという形式です。
適任となる受託者がいないので、とりあえず自分自身を受託者として信託を設定するわけです。
自らが亡くなった時の相続の争いが予想されるために、一日も早くその対策をとる必要があるときなどに、用いられます。
あとから適任となる受託者がみつかれば、変更すればよいわけです。
信託宣言は、公正証書その他の書面または電磁的記録で作成することが求められています。
公正証書が唯一認められているわけではないですが、やはり公正証書化が望まれます。