任意後見契約は、現在は判断能力に問題はないけれど、判断能力が衰えたときに備えて、あらかじめ自分が信頼できる人(任意後見人の候補者)と、自分の財産管理や身上監護のことを任せる契約を言います。
任意後見契約の効力が発生するのは、任意後見監督人という人が選任された時となります。
言い換えれば、ご本人の判断能力が衰えてきて、そろそろ任意後見契約を発効しないといけないときが来れば、家庭裁判所に任意後見人選任の申立をすることになります。
この任意後見監督人は、任意後見人の仕事ぶりを監督し、家庭裁判所に報告する人のことを言います。
ここでお気づきの方がいらっしゃるかもしれませんが、「任意後見契約」って「信託」に似てませんか?
ともに、判断能力が十分なときに、信頼できる人(受託者、任意後見受任者)に自分の財産の管理を任せている点です。
しかし、この両者は似て非なるものなのです。
まず、任意後見契約は、自分自身の財産の管理・運用・処分を任せることはできますが、信託ほどの自由度はありません。
不動産を信託した場合、信託なら信託契約に反する行為はできませんが、信託目的に照らして、適切な行為なら受託者は幅広い裁量で行うことができます。
一方、任意後見人は、法定後見人ほど財産管理の方法に制約を受けませんが、任意後見監督人の監督を受け、財産管理・運用処分について、報告を求められることになります。
任意後見監督人が納得のいかない管理や処分であると判断すれば、任意後見監督人から指示を受けたり、是正勧告を受けたりします。
当然そのようなことがあれば、任意後見監督人は、家庭裁判所に報告をし、家庭裁判所も任意後見人の事務処理が適切であるか、注意深く監督するのです。
したがって、現実問題として任意後見人が委任者本人の不動産などの重要な財産を売却したり、その不動産を担保に入れて、お金を借り入れるなどの処分行為は、なかなか難しいと言わざるを得ないのです。
また、信託では、利益を受ける人を後の世代にわたって、連続して指定することができますが、任意後見制度ではできません。
一方、任意後見制度にあって、信託ではできないこともあります。
それは身上監護に関する事務です。身上監護とは、施設入所契約や介護契約の締結等の事務を言い、信託ではできないとされています。
信託では身上監護の事務ができませんので、信託の受益権(お金)を給付してもらっても、介護施設への入所契約や、介護契約をすることは、信託の受託者はできないのです。
だから、ご高齢となった方が委託者となる場合は、信託とともに、任意後見制度の利用を検討することが重要となります。
任意後見は、利用したいと思っても、認知症になってしまったならば、利用できません。
認知症の方が利用できるのは、硬直化が問題視されている法定後見だけです。
法定後見の利用を回避するという意味でも、任意後見の利用は意味があり、信託との併用が重要です。